インサートナットを使用する際、最も慎重に検討しなければならないのが「下穴径」のサイズ選定です。穴が小さすぎると母材が割れてしまう恐れがあり、逆に大きすぎると十分な強度が確保できず、部品が脱落してしまうリスクがあります。本記事では、樹脂や木材など材質に合わせた適切な下穴径の決め方や、計算の目安となる考え方について詳しく解説していきます。
一般的に、下穴径はインサートナットの最大外径よりもわずかに小さく設定する必要があります。ひとつの目安として、外径から10パーセントから15パーセント程度小さく見積もる計算方法や、ねじ込み式タイプであれば谷の径を基準にする考え方が知られています。しかし、これらはあくまで机上の計算に過ぎず、実際にはナット表面のローレット加工の形状や溝の深さによって最適な寸法は大きく変動します。単純な計算式だけで算出された数値は、あくまで初期の目安として捉え、絶対的な正解ではないと認識しておくことが大切です。
計算式で一発で答えを出したいと思われるかもしれませんが、最も確実で失敗がない方法は、各メーカーが公表している推奨下穴径の数値を参照することです。たとえ同じM3やM4といったねじサイズのインサートナットであっても、製造メーカーや製品シリーズによって外径寸法や母材への食いつき構造は全く異なります。そのため、汎用的な計算式に頼るのではなく、必ず使用する製品のカタログスペックや技術資料を確認し、そこに記載されている推奨値を第一優先の基準として採用するようにしてください。
メーカー推奨値はあくまで標準的な環境での数値です。実際にインサートナットを埋め込む母材(相手材)の材質によって、下穴径を微調整する必要があります。
ABSやPLA、ポリカーボネートといった硬質樹脂や3Dプリンタ造形物に使用する場合、下穴が小さすぎると挿入時の圧力でクラックと呼ばれる割れや白化現象が発生しやすくなります。特に熱圧入、いわゆるヒートインサートを行う際は、溶けた樹脂が逃げるためのスペースも考慮しなければなりません。そのため、推奨値よりもわずかに大きめに設定したり、入り口が広く奥が狭いテーパー形状の穴を採用したりすることで、樹脂への負荷を減らしつつ作業性を向上させることができます。
木材などの柔らかい素材や、層状になっている合板などに使用する場合は、十分な抜け強度を確保するために、標準的な数値よりもややきつめの小さな下穴径に設定することがあります。相手材が柔らかい分、ナットの突起部を深く食い込ませることで固定力を高める狙いがあるからです。ただし、あまりに穴を小さくしすぎて無理にねじ込むと、木材が割れてしまったり、インサートナットが斜めに入ってしまったりする原因になりますので、事前に試し開けをしてねじ込み時のトルク感を確認することが非常に重要です。
下穴径が大きすぎる状態で施工してしまうと、インサートナットの外周部が母材に対して十分に食いつきません。その結果として最も多く見られるのが、ボルトを締め付けようとした際にナット自体も一緒に回転してしまう供回りという現象です。また、ボルトを固定できたとしても、少し引っ張っただけでナットがスポッと抜けてしまう強度不足に陥るリスクもありますので、穴がガバガバになっていないか慎重に確認する必要があります。
反対に下穴径が小さすぎる場合は、挿入時の抵抗が極端に大きくなり、受け手となる母材に対して過度なストレスがかかり続けてしまいます。これが原因で樹脂などの母材そのものが割れてしまったり、インサートナットが所定の位置まで入りきらずに表面から浮いてしまったりするトラブルが発生します。一度入れたナットを綺麗に取り除くことは困難ですので、いきなり本番の製品で加工するのではなく、必ず端材などでテストを行って最適な径を見つける工程を挟んでください。
インサートナットの下穴径選定において最も重要なのは、計算式だけで安易に判断しないことです。まずはメーカーのカタログ推奨値を基準として確認し、そこから硬い樹脂であれば大きめに、柔らかい木材であれば小さめにするなど、材質に合わせて微調整を行うことが成功の鍵となります。そして何よりも、本番前に必ず端材でテストを行い、割れや抜けがないかを確認する手間を惜しまないでください。これらを徹底することで、トラブルを防ぎ、確実な締結を実現することができるでしょう。
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